NEWS(プレスリリース)釧路校の学生が発見した二枚貝化石は新種:釧路校教員らの研究グループが解明
2022年3月25日
概要
2017年に北海道教育大学釧路校の学生が北見市で採取した中期中新世前期(約1600万?1400万年前)の二枚貝化石が新種であったことが、当校松原尚志教授らの研究グループによる研究の結果、明らかとなりました。当時、卒業研究の一環として化石標本を採取した大橋崇人さんにちなみ、Cyclopecten ohashii Matsubara in Matsubara et al., 2022(和名:オオハシナデシコ)と命名され、2022年3月25日発行の『北見博物館研究報告』第3号(写真1)に発表されました。本新種は北西太平洋地域のCyclopecten Verrill, 1897 ウロコハリナデシコの種としては最古の種です。また、北西太平洋に分布している本属の現生種はほとんどが深海の泥?砂底に棲息していますが、共産する貝類化石から、オオハシナデシコは浅海の砂礫底に棲息していたと考えられます。
写真1. 『北見博物館研究報告』第3号の表紙
■発見の経緯
新種の二枚貝化石が発見されたのは北見市相内町の無加川の川岸です。2017年当時、北海道教育大学釧路校地学研究室の4年生だった大橋崇人さんは、卒業研究として北見市相内町の無加川川岸に露出する相内層(あいのないそう)と呼ばれる地層から産する貝類化石の研究を行いました。相内層は海棲哺乳類、デスモスチルスの歯の化石を産出したことで知られる地層です。大橋さんは同年10月?11月にかけて現地調査を行い、多くの貝類化石を採取しました(写真2)。写真2. 北見市の無加川川岸で地質調査を行う大橋さん(2017年10月16日).松原教授撮影.
大橋さんの卒業後、化石標本は当学釧路校地学研究室に学術資料として保管されていましたが、昨年、松原教授が共同研究者として参加している「日本古生物標本横断データベース (jPaleoDB)」(http://jpaleodb.org ; 研究代表者:伊藤泰弘 九州大学総合研究博物館 准教授)のデータベース整備の一環として、北網圏北見文化センターおよび北海道大学総合博物館に所蔵されている相内層産の貝類化石標本と合わせて、整理と分類学的再検討が行われました。その結果、腹足類(=巻貝)4属4種、二枚貝類16属18種が識別され、これらのうち、二枚貝類1種がCyclopecten Verrill, 1897 ウロコハリナデシコ属(ワタゾコツキヒ科)の新種であることが明らかとなったものです。新種の種小名「ohashii」と和名「オオハシナデシコ」は化石の発見者の大橋崇人さんに献名したものです。
これらの研究成果は2022年3月20日発行の『北見博物館研究紀要』第3号に以下の論文として発表されました:
松原尚志?太田敏量?中村雄紀?市川岳朗?兼子尚知?伊藤泰弘, 2022: 北海道北見市の中新統相内層の貝類化石群.北見博物館研究報告, no. 3, p. 1–42.
※北海道教育大学学術リポジトリ(http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/
123456789/12143)で公開されています.
■オオハシナデシコの特徴
写真3. Cyclopecten ohashii Matsubara in Matsubara et al., 2022 オオハシナデシコ.
上:ホロタイプ*(HUEK CF-202-1)のシリコンビニルキャスト.左:外面;右:内面.下:パラタイプ**(HUEK CF-202-2)のシリコンビニルキャスト.左:外面;右:内面.松原教授撮影. *ホロタイプ: 原著者が指定した種の基準となる唯一の標本. **パラタイプ:原著者が指定したホロタイプ以外の新種提唱の基礎とした複数標本.種の基準とはならない.
Cyclopecten ohashii オオハシナデシコ(写真3)の形態的特徴は以下の通りです:
上:ホロタイプ*(HUEK CF-202-1)のシリコンビニルキャスト.左:外面;右:内面.下:パラタイプ**(HUEK CF-202-2)のシリコンビニルキャスト.左:外面;右:内面.松原教授撮影. *ホロタイプ: 原著者が指定した種の基準となる唯一の標本. **パラタイプ:原著者が指定したホロタイプ以外の新種提唱の基礎とした複数標本.種の基準とはならない.
Cyclopecten ohashii オオハシナデシコ(写真3)の形態的特徴は以下の通りです:
- ?最大殻長約18mmと、Cyclopecten Verrill, 1897 ウロコハリナデシコ属の種としてはやや大型。
- 右殻が左殻よりもやや膨れる不等殻。
- 右殻の殻表の装飾が共縁状の成長輪脈と腹縁側ではこれと交叉する細肋や条線からなる。
- 右殻の内面はほぼ平滑で内肋を欠く。
- ?右殻が腹縁付近で急激に内曲する。
- ?左殻の殻表の装飾が約14本の鱗状の突起のある放射肋と肋間肋からなる。
- ?左殻の前耳状突起の放射肋が強い。
- ?後耳状突起の後縁がほぼ垂直である。
- ?左殻の内面は表面の装飾に沿って放射状にうねる
■本新種の重要性
本種は以下の2点で重要です:1. 北西太平洋地域のCyclopecten Verrill, 1897 ウロコハリナデシコ属(ワタゾコツキヒ科)としては唯一の化石種、かつ最古の種です。
2. Cyclopecten Verrill, 1897 ウロコハリナデシコ属の現生種は世界中の浅海?深海から知られていますが、日本近海では深海の泥?砂底または海底洞窟に棲息しています。一方、オオハシナデシコは共産する化石貝類から、現生種よりもずっと浅い上部浅海帯(水深0?30m)の砂礫底に棲息していたと考えられます。これらのことから、約1500万年前には浅海であった北西太平洋の本属の棲息環境は、その後、下部浅海?深海に変化した可能性が示されます。
■その他
本新種を含む相内層の貝類化石については、本年のゴールデンウィークから北網圏北見文化センターで開催されるミニ企画展で一般公開される予定です。■研究メンバー
松原尚志 北海道教育大学釧路校 教授太田敏量 北網圏北見文化センター 元館長
中村雄紀 ところ遺跡の森 管理係長
市川岳朗 北網圏北見文化センター 学芸員
兼子尚知 産業技術研究所地質調査総合センター 主任研究員
伊藤泰弘 九州大学総合研究博物館 准教授
中村雄紀 ところ遺跡の森 管理係長
市川岳朗 北網圏北見文化センター 学芸員
兼子尚知 産業技術研究所地質調査総合センター 主任研究員
伊藤泰弘 九州大学総合研究博物館 准教授